細胞融合の物理的な制御因子を発見
―細胞膜にかかる張力が低下することで細胞融合を促進―
2025年05月14日
研究?産学連携
細胞どうしが融合する現象(細胞融合※1)は、配偶子の授精、骨格筋の発生、胎児栄養膜の形成、破骨細胞※2による骨代謝、ウイルスの宿主細胞への感染など、ヒトの体内で起こる幅広い生理学的および病理学的プロセスにおいて見られる、基本的な生物学的現象です。神戸大学バイオシグナル総合研究センターのWan Yumeng大学院生、根本悠宇里助教、辻田和也准教授、伊藤俊樹教授のグループは、北海道大学大学院医学研究院の及川司講師、千葉大学大学院理学研究院の高野和儀助教、京都大学物質-細胞統合システム拠点の藤原敬宏特定准教授と共同で、細胞膜にかかる「張力」(細胞膜張力)※3が、細胞融合を制御する物理的な因子であることを世界で初めて明らかにしました。今後、破骨細胞の形成?機能異常による骨粗しょう症や、ウイルスの宿主細胞への融合を介した感染症に対する新しい治療戦略の開発につながる可能性があります。
この研究成果は、5月8日に国際学術誌『Journal of Cell Biology』に掲載されました。
※1 細胞融合
同種、または異種の複数の細胞が融合し、単一の細胞膜中に複数の核、あるいは遺伝情報を持つ1つの細胞ができる現象。
※2 破骨細胞
古くなった骨や損傷した骨を分解、吸収する細胞。破骨細胞と、新しい骨を形成する骨芽細胞との適切なバランスにより健康な骨が維持される。骨吸収能を持つ成熟した破骨細胞になるには、細胞融合過程が必要である。
※3 細胞膜にかかる「張力」(細胞膜張力)
細胞膜の表面張力と、細胞膜-アクチン細胞骨格間の接着力により規定される細胞の力学的な性質。表面張力は細胞膜の伸展?退縮や細胞膜前後の浸透圧に、細胞膜-アクチン細胞骨格間の接着力は ERMタンパク質などのリンカータンパク質に影響を受ける。
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研究の概要図:細胞膜張力の低下が細胞融合を引き起こすメカニズム
細胞融合を誘導する前、細胞膜とアクチン細胞骨格とはERMタンパク質によって架橋され、細胞膜張力が高い状態に保たれている。細胞膜直下のERMタンパク質が外れて細胞膜張力が低下すると、これを感知するBARタンパク質がインバドソームの形成を誘導し、細胞融合が引き起こされる。